即興(そっきょう、英:Improvisation)とは、型にとらわれず自由に思うままに作り上げる、作り上げていく動きや演奏、またその手法のこと。インプロビゼーション、アドリブともいう。ただしインプロビゼーションとアドリブを厳密に区別する者もいる。一般には、音楽・ダンス・演劇の世界において使用される語。
形式による制約よりも、演奏時・演舞時の知覚を優先とする。 音楽・ダンスなどにおける創造の源流でもあり、作品制作時においても深く関係する。
クラシック音楽における即興 [編集]
即興は、音楽の歴史の中の草創期から、音楽の中の欠くことのできない部分の1つであった。過去1000年に渡って、西洋のクラシック音楽においてとても重要な要素であった。フラメンコやピグミーなどのアフリカの音楽、カルナータカ音楽(en:Carnatic music)やヒンドゥースターニー音楽などの東洋のクラシック音楽、ラップのような現代の音楽、西洋クラシック音楽の一時期のスタイル古典派音楽(カデンツァ、通奏低音参照)など、様々な伝統的な音楽にフィーチャーされてきた。
いくつかの例 [編集]
たとえば中世のオルガン音楽のオリジナルスコアでは、通常、即興や潤色の指示がされていた。そこで使われたスケール(音階)のいくつかは、いまジャズで使われている即興における法則のいくつかと同じものである。
中世、西暦1000年から1300年頃、オルガン音楽の中の数パートに単旋律聖歌(歌)が入れられ始めたとき、1つかそれ以上の歌のパートは通常即興で歌われ、楽譜に書かれたメロディラインの周りを、上に下に行き来しながら自由な旋律を歌った。
バロック音楽の時代(1600年 - 1750年)、古典派音楽の時代(1750年 - 1830年)、ロマン派音楽の時代(1830年 - 1900年)を通じて、即興は繁盛した。とりわけ、オルガンや、ピアノや、ハープシコードのようなキーボード奏者にとって花開いた。バッハ、ヘンデル、モーツァルト、ベートーベン、リスト、他のたくさんの有名な作曲家、巨匠と呼ばれるピアニストやオルガン奏者たちは、即興の技術に優れ、その日々を、即興的な時代、とも呼ばれる。
多くのクラシック音楽の楽譜は即興のセクションを含む。たとえばバッハやヘンデルのキーボード組曲の前奏曲は、単にコード進行から成っている。演奏家は、これをベースとして即興を演じた。
ジャズにおける即興 [編集]
ブルース、ジャズ、ブルーグラスは、即興を用いる音楽としてよく知られている。即興は“make up a song about bicycles”や“このコード変化を用いて”などといった一定のルールの強制とともに成り立った。あるいは、全くルールのない、フリー・インプロビゼーション(自由即興)として在った。
1950年代から、その時代のコンテポラリーの作曲家たちは、高い創造性と、いくつもの音をほのめかした、不明確であいまいな楽譜をテクニックで読み取って演奏する即興を、演奏家に要求した。カリフォルニア大学の Lukas Foss の Improvisation Chamber Ensemble や Larry Austin の New Music Ensemble、Ann Arbor の the ONCE Group、the Sonic Arts Group、the San Francisco Tape Music Center といったジャズアンサンブルグループが現れた。後者3つのグループは、ツアーやコンサートなどで自資金を賄えた。それらの演奏の中には、Foss の「Time Cycles」(1960年)や「Echoi」(1963年)が含まれていた。(Von Gunden、1983年、p.32)
他の作曲家たちは、Pauline Oliveros、テリー・ライリー、フレデリック・ジェフスキー、Karlheinz Essl、クリスチャン・ウォルフの即興とともに仕事をした。
音楽的な即興は、臨床的な即興(en:clinical improvisation)の形で、音楽療法 のテクニックとして広く使われている。
ロック音楽における即興 [編集]
ジャズ音楽における即興様式の興隆にともない、ロック音楽においても即興は取り入れられた。有名な例では、クリーム、グレイトフル・デッド、レッド・ツェッペリン、キング・クリムゾンなどのバンドがある。
出典 [編集]
Von Gunden, Heidi(1983年)。 The Music of Pauline Oliveros。ISBN 0810816008
演劇 [編集]
即興劇 参照。
即興は、多くの俳優にとって、一般的なツールである。それは劇と、高校や大学の演劇のクラスを繋ぎとめるものである。群を抜いて優れていると目される コンスタンチン・スタニスラフスキーの演劇理論によると、俳優があるシーンを即興で演じるには、彼(彼女)自身の直感を信じられなければならないという。スタニスラフスキーによれば、俳優は、演じるキャラクターの内なるまたは外なる刺激への反応を、彼(彼女)自身の直感によって決めなければならないという。即興を通じてこそ、演技・演じる動きについて、 mugging や indicating を使うかわりに、俳優は自身の直感を信じることを学ぶことが出来る(メソッド演技法 参照)。即興はまた、役への集中にも有用である。明らかに、何が起ころうとも許される環境では、難しく、緊張の多い状況であっても、俳優は一貫して集中力を保ちやすい。集中は、演劇を学ぶ授業(クラス)と共同研究(ワークショップ)を繋ぎとめるものである。集中は、俳優がシーンやアクションに集中しやすくする核心である。即興を維持し続けることに失敗した俳優は、blocking といわれる。
ダンス [編集]
Contact Improvisation の形式が作られたのは30年前になり、いまでは世界中で練習されている。Contact Improvisation は、もともとは1970年代のスティーヴ・パクストン(en:Steve Paxton)のen:movement studiesから生まれたもので、 Judson Dance Theater によって続けられた探求によって開発された。重量、パートナー、演技を分かち合う、ことに基づくもので、予期しない成果を生む。
日本における即興舞踊 [編集]
能は元来はすべて即興で演じられるものであり、舞は囃子とともに創出されてきた経緯がある。世阿弥の時代には型は重視されていなかったといわれている。歌舞伎においても、流派によっては日本舞踊においても即興感覚は創造性ある舞台に必要とされる。近年では前衛舞踊家土方巽を中心としたいわゆる舞踏において、即興は重要な技法のひとつとされ、即興をスタイルとする代表的な舞踏家に大野一雄、笠井叡、田中泯、岩名雅記らがいる。 現代ではコンテンポラリーを含む独自の技法で踊る現代舞踊手たちによって即興舞踊の公演が増えている。その場合、楽曲を流して背景音とすることの多い舞踏と違って即興演奏家と共演することも多い。また背景曲なしの無音で即興に踊る舞踏家やダンサーもいる。
映画 [編集]
映画監督 マイク・リー は、映画のキャラクターやストーリーラインを作るのに、何週間にも渡る長々とした即興を使う。彼は物事をどのように捉えるかのアイデアのスケッチをいくつか用意して映画を撮り始め、物語は作られていくが、役へ託した彼の意図は、俄かには明らかにされない。キャラクターが自身の宿命を知り、スクリーンには映し出されていない彼らの人生の別の重要な側面も含め、運命に対してどう振る舞っていくかが、次第に明らかにされていく。最後に、映画は、即興を撮っていたときの対話やアクションを描き出して終わる。
コメディ [編集]
en:Improvisational theatre#Improvisational comedy 参照。
即興はまた、世界中の劇場で演じられている。ドラマチックな意図で演じられることもあるが、多くの場合、コメディの要素として演じられる。最も有名なものは、シカゴのセカンド・シティ(The Second City)である。セカンド・シティには、Viola Spolin や Paul Sills、Del Close、Keith Johnstone のような、即席に演じる演じ方のメソッドを作ったパイオニア達がいた。彼らはしばしば、驚くべきキャラクターと態度で、おかしなシーンを大胆に即興で演じた。
テレビ [編集]
1990年代、「Whose Line Is It Anyway?」というテレビ番組は、 ショートフォーム(en:Improvisational theatre#Improvisational comedy)というコメディの即興形式を普及させた。オリジナルはイギリスのものだが、後にアメリカで Drew Carey をホストに迎えた番組でリバイバルし、人気が出た。最近では、HBO の「Curb Your Enthusiasm」(ジェリー・サインフェルド 主演、共同制作 Larry David)や Bravo シリーズの「Significant Others」などが、即興を使って、ドラマチックな味わいを強めながら、長時間番組を作りだしている。即興に基づくまた別の番組には i の「World Cup Comedy」がある。カナダには、オーストラリアのテレビ番組シリーズ Going Home を基にした Global Television のメロドラマ「Train 48」が、即興の形式を使い、プロットに書かれたアウトラインを元に、対話劇で俳優が即興を演じている。
ロールプレイングゲーム [編集]
いくつかの ロールプレイングゲーム(テーブルトークRPG、コンピュータRPG)は、しばしばうわべだけの即興を含む。プレイヤーが演じるキャラクターは予め決められているが、他のプレイヤーやゲームの中で起こるイベントへの反応は、即興を含む。そのキャラクターの演技の深みに興味を示す人たちもいる。純粋に戦闘シーンや game mechanic を楽しむ人たちがいる一方で、それよりもキャラクターの情熱的で機知に富んだ当意即妙のやりとりに感情移入し、凝った筋書きを楽しむ人たちがいる。
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